「どういう……」
大介に質問の間を与えず、金髪の女性は部屋の中に突入した。
「失礼~」
「ちょっ...お前、誰だ?何しに来たんだ!?」
「昨日の夜、あなたに身も心もごちゃごちゃにされた悠治の保護者ですよ」
「はぁ!?」
(保護者?というと、あいつが扮したのではなく、違う人間なのか?)
(っ、違う、そんなことより――)
「誤解されそうな言い方をやめろ!オレはあのシスコンに何もしなかった。保護者って、姉か?親戚か?名前は?小説の件のために来たのか?」
質問連発の大介に対して、美女は余裕そうに唇に指をあてて、ちょっと考えてから答えた。
「そうですね、この姿で誰かに自己紹介したことはまだないわ……じゃあ、ペンネームの悠子でいいわ」
「ペンネームの悠子……まさか、あの小説を書いたのはお前か!?」
「いいえ、悠治が書いたの。クズ男に復讐するとはいえ、三流エロロマンスを書くなんて、私に相応しくないもの」
「じゃあ、彼はお前のペンネームを借りたのか?」
「いいえ、悠子は悠治のペンネームです」
「二人が同じペンネーム?」
「理解力がどうかしてるわ、出直しに来なさい」
「”#$%&’()=IU'&%$#"#$%&'()000」
(お前の説明こそどうかしてるじゃないか!!)
がっかりそうにため息をついた「悠子」、完全に混乱に落ちた大介。
それ以上大介に構わず、悠子はスタジオを回し始めた。
作業台に置いてある建物の模型や企画書を見て、納得したように頷いた。
「なるほど、密室脱出ゲームとか作ってますね。引きこもりで引きこもりみたいなエンターテインメントを考えているから、おかしくなったのもおかしくないですね」
「それはあのシスコンのことだろ!」
「あら、シスコンで悪いですね」
悠子は冷笑した。
「でも、ここにいる人間性も分からない男よりずっとましだと思いますわ」
「人間性も分からない男ってなんだ!?」
悠子はパソコンで大介の作業資料をめぐりながら、毒舌を連発した。
「人の心を動かせる盛り上がりがないのに轟音や叫びだけで雰囲気を作る、現実性のない残酷シーンで人を脅かす、生理的に気持ち悪い道具を置きっぱなし、それでホラーのつもり?むしろギャグですわ。アイデアだけは褒めてやるけど、所詮、人間性の分からない素人が作りがちなダメ作です」
「!?」
(あれは、制作会社が流行要素云々って無理やりに追加させられたものだ!)
大介が反論する前に、悠子のほうはもう削除を押した。
「よし、削除っと」
「!!!」
反論もアレルギーのことも忘れて、大介は一歩駆け出して、悠子の手首を掴んだ。
「お前、なんてことを……!!」
悠子は鋭い目で大介を見返した。
「まだ分かってないの?頭が悪いみたいね。あなたが私にしたことをやり返しに来たのに決まってるじゃない」
「お前に何もしていないだろ!」
「私の家に不法侵入、私の許可なしでパソコンやメモをいじった、私の顔を通帳で叩いた、私の髪とドレスを汚い足で踏みにじんだ、何より、私の妹と電話番号を交換したこと!――どれも万死に至る罪です!」
「何バカなことを、あれは全部あのシスコン……っ!!」
不思議にも、大介はある可能性に気づいた。
「お前、まさか……」
近くで見たら、やっぱり――
メイクしているけど、悠子は悠治と全く同じ顔を持っているようだ。
特に、右目下のほくろが全く同じ位置にある。
「もうわかったでしょ?悠治の顔は私の顔、悠治の家は私の家、悠治の妹は私の妹ですよ!」
そして、悠子のいろんな妙な言い方から導いた結論は……
「お前は、二重、人格……!?」
聞いたことがある。
本人の人格がストレスに耐えられなく、第二の人格は保護者として生まれる話……
これもまた、とんでもない面倒なことになりそう。
でも、相手は二重人格だろうと三重人格だろうと、そもそも、基本な事実が捻じ曲げられた。「いい加減にしろ!オレはお前の家に行ったのは、お前があのデタラメの小説を書いたから!」「書いたのは私じゃない、悠治です。この件に関して、私は完全に被害者ですわ」「何が完全に被害者だ……」話が通じない相手だと分かって、大介は平和交渉を諦めた。「とにかく、警察を……」スマホで近所の交番に電話をかけようとしたら、いきなり、悠子の足が飛んできて、携帯が蹴り飛ばされた。そして、悠子に後ろから両手を掴まれて、顔が下向きで机に押し倒された。「言ったでしょ。私は悠治の保護者、警察を呼ぶくらいで、私をどうにかできると思いますか?」そう言いながら、悠子は体勢を下げて、大介の手を自分の顔と首に押しつけた。「!!」それから大介を解放し、自分のスマホを出した。「さあ、警察を呼びましょう。私今、理不尽なセクハラをされました」「ひ、卑怯なっ!」今度は大介が電話を阻止するために、悠子に飛びかかった。でも悠子はワルツを踊るように、大介の動きを誘導し、体の接触を利用して、大介の手を自分の体のあちこちに触らせた。最後に、大介の腰を捕まえて、自分の上に乗せている状態で二人を床に倒らせた。そして、適時に横からスマホのカメラシャッターを押した。「証拠写真もゲットですわ」「一体、何がしたいんだ、この変態……!!!」大介の体は怒りで震えている。「写真を渡せ!」大介は携帯を奪おうと、スマホもろとも悠子の手を掴んだ。その時――「お邪魔しま~す!」玄関から、アシスタントたちの声が届いた。「大介さん、差し入れを持ってき……」「!!」「!?」「!?」二人の若い男性と一人の若い女性が、目の前の景色に呆気にとられ
「どういう……」大介に質問の間を与えず、金髪の女性は部屋の中に突入した。「失礼~」「ちょっ...お前、誰だ?何しに来たんだ!?」「昨日の夜、あなたに身も心もごちゃごちゃにされた悠治の保護者ですよ」「はぁ!?」(保護者?というと、あいつが扮したのではなく、違う人間なのか?)(っ、違う、そんなことより――)「誤解されそうな言い方をやめろ!オレはあのシスコンに何もしなかった。保護者って、姉か?親戚か?名前は?小説の件のために来たのか?」質問連発の大介に対して、美女は余裕そうに唇に指をあてて、ちょっと考えてから答えた。「そうですね、この姿で誰かに自己紹介したことはまだないわ……じゃあ、ペンネームの悠子でいいわ」「ペンネームの悠子……まさか、あの小説を書いたのはお前か!?」「いいえ、悠治が書いたの。クズ男に復讐するとはいえ、三流エロロマンスを書くなんて、私に相応しくないもの」「じゃあ、彼はお前のペンネームを借りたのか?」「いいえ、悠子は悠治のペンネームです」「二人が同じペンネーム?」「理解力がどうかしてるわ、出直しに来なさい」「”#$%&’()=IU'&%$#"#$%&'()000」(お前の説明こそどうかしてるじゃないか!!)がっかりそうにため息をついた「悠子」、完全に混乱に落ちた大介。それ以上大介に構わず、悠子はスタジオを回し始めた。作業台に置いてある建物の模型や企画書を見て、納得したように頷いた。「なるほど、密室脱出ゲームとか作ってますね。引きこもりで引きこもりみたいなエンターテインメントを考えているから、おかしくなったのもおかしくないですね」「それはあのシスコンのことだろ!」「あら、シスコンで悪いですね」悠子は冷笑した。「でも、ここにいる人間性も分からない男よりずっとましだと思いますわ」「人間性も
金色の長い髪に、深紅色のドレス、映画にも出そうな背の高い女性が寄ってきた。女性は片手で大介の腕を組んで、片手で何枚の万円札を酔っ払った女性に渡した。「お金が必要だったら、これをどうぞ」二人のおしゃれ女性に挟まれて、大介は早く離れなければ!と思いながらも、金髪の女性が酔っ払った女性にかけた言葉を聞いて、動きを止めた。「あんた、何日もこの辺をうろついていたのね。詐欺なら、ほかの人にしてちょうだい。この人を潰すのは、私だから」「!!」すると、酔っ払った女性の表情がピンッと冷静に戻った。「チッ、同業者か!」お金を受け取って、自称捨てられた妊婦の女性は不機嫌な顔で逃げ出した。「同業者?詐欺師……ですか?オレを潰すってどういうこと?」「違います」金髪の女性はにっこり大介に微笑みをかけた。「ああでも言わないと、私はあなたの浮気相手にされて、一緒にお金を要求されるかも知れませんわ」「なるほど……ありがとうございます。さっきの代金は……」大介は懐から財布を取り出そうとしたら、金髪の女性に止められた。「いいの、ギャンブルで入ったお金ですから、人助けに使ったほうがいいと思います」女性はさりげなく大介の胸に手を当てて、そして、顔に触る。「人間はね、普段の所業から報いを受けるの。どんなことをしてきたのか、いつも自分胸に手を当てて確かめてくださいね」「はぁ……」「だって、報いが来る時に考えるのはもう遅いですから」金髪の女性は意味の分からない言葉を残して置いて、その場を去った。その時、金髪の女性に触られても緊張感がなく、アレルギー反応も出ないことに不思議と思った。その後も、町中で何回もその女性を見かけたような気がする。まさか……あの女性は、この悠治という男が扮装したのか?あの格好で、ずっとストーカーをやっていたのか?!
雪枝と正樹の話が終わってからもう30分が経ったのにも関わらず、悠治は石化状態のままだった。おかしいことにも、大介が雪枝と正樹を見送った。帰る前に、雪枝は大介と連絡先を交換し、「今の私じゃだめだから、代わりに、お兄ちゃんを見ててくれませんか?」と頼んだ。(何故オレはそんなことを承諾したんだ……?)大介は頭を抱えながら、部屋に戻って、石化中の悠治と対面した。でも、悠治はこのまま再起不能になったら、その小説は放置される危険がある。名誉回復は難しい。(そう言えば、あの小説の描写が気になる。)知り合いじゃないのに、コーヒーの好み、電車を待つときのくせい、よく寄っている洋服の店、行きつけのレストラン、サロン……全部当たった。ひょとしたら、誰かを雇って、ストッキングしているかもしれない。(念のため、それも聞いたほうがいい)「おい、シスコン」「……」「小説の件、どうするつもりだ?もうわかっただろ?オレに関係ないことだ」「…………」パタンと、悠治は仰向けに倒れた。「おい!死ぬな!どうしてもなら、オレの名誉を回復してからにしろ!」大介はさっそく悠治の頸の脈を確認した。「救急車を呼ぶか……」大介は携帯を出したら、悠治の喉から声が漏れた。「………………無理だ……もう終わった……俺の人生は……」「シスコン人生なんか知らないけど、こっちの人生まで台無しにするつもりか?お前が何もしないなら、本当に訴える。そうなれば、賠償金も取られるぞ!」
「雪枝を傷付けたことに、深くお詫びを申し上げます!」正樹という男性は悠治に向けて土下座した。「すべては、俺の弱さのせいです!雪枝のことが本当に好きです。好きすぎで、軽蔑されるのが怖くて……付き合いが長ければ長いほど、本当のことを言えなくなったんです」「本来なら、今年いっぱいで現在の仕事をやめて、花屋を開くつもりでした……」憎しみの標的がまだ大介から正樹に転移できていない。悠治は半分浮いている状態で続きを催促した。「で、開いたら?」「開いたら、いままでのことを雪枝に謝罪して、そして、プロポーズ……」「プロっ、ポーズ――!?」その単語で、悠治の魂はやっと完全に体に戻った。「あんな酷いことをあっさりとやり過ごして、その上に、恥知らずにプロポーズするつもりか!」悠治は正樹の胸倉を掴んだ。今でもその顔を殴ろうと拳を上げた。「やめてくださいお兄ちゃん!正樹はもう十分反省してるの!」雪枝が慌てて二人の間に入って、悠治の理解不能な目線の中で正樹を庇った。「……」傍観者の大介はもう事情を理解した。雪枝と正樹の間の問題はもう解決済み。二人は兄に認めてもらうために来たんだ。こんなつまらない恋人喧嘩のために、自分が巻き込まれて、クズ男としてネットにさらされたとは……馬鹿馬鹿しい。「あの日以来、Jellyが会社で私の悪口を広めていて…とても辛かった……正樹は私のために、わざわざ私の上司に会いに行って、みんなの前で私を庇ってくれたの。花屋のことも本当よ。去年の春に、私の大好きなクチナシの畑を買ってくれたの!だから、私、正樹のことを信じる!」正樹も顔を引き締めて、真摯な態度で悠治に語る。「悠治さん、信じてくれないかもしれないけど、俺、初恋の彼女に六股されたことがあります」(すごいな!)と大介は思わず感心した。(「暴け!六股彼女の秘密」というコメディー風の謎解きゲームを作ったら、斬新かもな……そんなことを考える場合じゃないか……)「あの子はホスト遊びが大好きでした。だから俺は、ホストになれば、ああいう女に復讐できると思って、大好きなバレーボールを諦めて、ホストになりました」(なるほど、その6股がバレーボール主力6人全員ってことか……)(ちょっと待って、バレーボール選手だったのに、なんでスポーツ屋じゃなく、花屋を……そんなことを考える場合じゃない
「どうして、ここに……!?」悠治が化け物でも見た表情で声を漏らした瞬間、大介は正しいところに来たと確信した。「お前は、あの留学生ホスト小説の作者か?」「な、何が留学生ホストだ!知らないぞ!」悠治は扉を閉めようとしたが、大介が一歩早く体で扉を塞いだ。「知らんぷりをしても無駄だ。警察を呼ぶ」「け、警察を呼んでどうするんだ!」向こうが不法侵入なのに、怯んだのは悠治のほうだ。(ちくしょう、しっかりしろ俺!雪枝を騙したクズ男が目の前にいるのに、なんでなにもできないんだ!殴りくらいしろ!)悠治が戸惑った隙に、大介は部屋に侵入した。「失礼」「おい!待って!」大介はゴミだらけの部屋を見まわして、机で光っているパソコンにロックオンした。さっそくパソコンの前まで歩いて、モニターに映している文章を読んだ。【大介は顎を私の鎖骨に貼り付けて、息を吹くような声で囁いた……「俺のことが嫌いだったら、いつでも押しのけてくれ……でも、すこしでも俺にその気があるのなら、俺は待つよ……俺を完全に信じる前に、ずっと待っているから……」】「!!?」【……これから何が待っているのか、もう覚悟している。でも、今の私にとって、大介よりも大事なものはない!目を閉じて、初めての欲情が含まれたキスを受け入れた……】「!!??!!」年齢制限のレベルがどんどん上がる文字に、大介の怒りもどんどん上がっている。もう見てられない!とちょっと目を逸らしたら、机に置いてある乱れた文字で書かれたノートが目に入った。【あの夜から、大介の態度が変わった……】【ほしいのは私じゃない、私のお金だと、大介が開き直した……】【久しぶりに経験のない子とやってみたいと大介が……】【大介は私の名義で、高額な謝金を……】【送られたのは、大介がほかの女子とのラブラブ写真、その中に、私の親友もいる……】「!!!」頭の上で噴火した大介は右手でパソコンのデータを削除して、左手でノートをごちゃごちゃにした。「な、なんてことをした!!」悠治は前に出てノートを救おうとした。「それはこっちのセリフだろ!!オレになんの恨みがあるんだ!なぜオレを無知の少女を騙すクズ男に書いたんだ!」大介は身長を利用して、ノートを悠治の届かない高さに上げた。「それはお前の本性だろ!本当のことを書いて何が悪いんだ!?」(し、しま